ー前回からの続きー
お正月にテキ屋のバイトをすることになった私は何とか初日の仕事を
終えました。(詳しくは「お正月の思い出(1)」)
翌日は朝から営業開始です。さすが元旦だけあってすごい人出です!
だんだん慣れて来た私はいかにもクロウト風に
「・・・らっしゃいせー・・・。あ、はーい。どうもありがっざいやーす!」
と薄笑いを浮かべながらタイ焼きを販売していました。タイ焼き屋台の
男性はぶっきらぼうな感じではありますが、なかなか気を使ってくれ、
「オイ!姉ちゃんよう!」
「はい?」
「コーヒー買ってきてくれや!ほれ、姉ちゃんと他のバイトの分もな!」
とマメにバイトに差し入れをしたり、
「寒かったら、向こうでカイロ貰ってこいや。」
と声をかけてくれたりしました。
そのうちタイヤキ屋台の男性とポツポツと世間話などもするようになり、
2日目はなかなか楽しく働くことが出来ました。時折参拝客の中に友人の姿が見られ、友人がこちらに気がついて「何をしてるの!?」と驚愕した顔をされる事もありましたが、それ以外は特に変わったことも無く2日目も無事に終了しました。
そして3日目が来ました。これで最終日です。「もう今日で最後かあ・・・。」
少し名残惜しいような気持ちで私はタイ焼きを売っていました。初日から
考えるとものすごい余裕です。ちょうどその時タイ焼き屋台の男性は何かで席を外していて屋台の中は、私1人。そしてタイ焼きはしばらく焼かなくてもいいくらいストックがあって、タイ焼き機は空のまま置いてありました。
次の瞬間何を思ったのか、私は急にタイ焼きの機械に触ってみたくなりました。いつもの男性の立ち位置に移動して、
「へえー。ここをこうして・・・。」と、取っ手を持ち上げたその時、
ガターン!
「あ、ああっ・・・!」
や、やばい!外れてしまった!!そのとたん
「どうした!」
とタイ焼き屋台の男性が飛び込んで来ました。う、裏にいたのか!
「す、すみませんっ!!こ、これ・・・!」
「ああ!?」
ひいいーおたすけー!!
私は調子にのってしまったことを後悔しながら「なんとか命だけは!」
と心の中で祈りました。
男性はヒョイヒョイッと取っ手を元の位置に戻しました。
な、なんだちょっとずれてしまっただけだったのか・・・。よ、良かった・・・。
男性は私を怒ったりはしませんでしたが、後にその機械が先代から譲り受けた大事なものであることや、タイ焼きのレシピも自分なりに色々工夫していることなどを話してくれました。そうして長いようで短かった3日間の仕事が終わりました。最後に組長がニコニコと「2月も祭りがあるから良かったらまたおいで!」と言いながら裸の一万円札を3枚ずつ、バイト達に手渡して
くれました。
組長の言った通り、次の月のアルバイト情報誌には見覚えのある募集記事がありました。私はその後そこに電話をかけることはなかったのですが、
今でもお祭りや初詣に行くとずらりと並んだ屋台の中に、ここにはいるはずのない彼らの姿を追ってしまったり、タイ焼きの屋台に並べられている箱に
あの日の組の名前を探してしまったりするのです。
記憶の中ではこんな感じ。お世話になりました。
<ブログランキングに参加しました>
人気ブログランキングへ
PR