その晩サト子は長い間台所に立ったまま顔をしかめていた。そしてサト子の夫、一郎は台所のシンクの前で身じろぎもせず立ち尽くしている妻をリビングからしばらくの間新聞越しに眺めていた。
長い静寂が辺りを包む。新聞を持つ手が汗ばみ、耐え切れずサト子に声をかけようと一郎が腰を浮かしかけたその時、サト子が大きくため息をついた。
・・・私、どうしてこんなにムネ肉ばかりを買ってしまったのかしら・・・。
数時間前にサト子は行きつけのスーパーで鶏のムネ肉を大量に買ってしまったのだ。もちろんグラム38円という安売りではあったが、サト子はなんとムネ肉を10枚も購入した。レジの店員は驚きを隠せないようだったが、サト子はそれをむしろ賞賛と受けとめた。
・・・どうかしてたわ。いくら広告の品だったからって・・・。
そんなサト子に忍び寄る影に、まだサト子は気づいていなかった・・・。
続く
次回予告「ムネ肉のゆくえ」
ムネ肉の存在を一郎に知られてしまったサト子。
そして大量のムネ肉を前に繰り広げられる夫婦の愛憎劇。
グラム38円のムネ肉はどうなってしまうのか!?
PR